今回は、雅楽でも絃楽器として使われる
『琵琶』
という楽器について、まずは大まかな概要を把握していきたいと思います。
この楽器は、日本では元々語りに合わせて使われたもの。なので歴史は古いですが、様々なコラボレーションがなされるようになった現代音楽においても意外と聞く機会が少ないのではないかと思われます。「琵琶法師」や「耳なし芳一」などで楽器としても結構有名だと思うのに、ほんと琵琶を使ったBGMって意外とないんですよね。
なぜだろうか。この記事の終わりにはそれが少しはわかるかもしれません。(わからないかもしれない
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琵琶(楽器)とは
琵琶は、日本では今から1400年前(7世紀頃)に伝わったとされています。
日本の琵琶には幾つかの種類があるのですが、この記事ではDTMで和風の楽曲を作る上での琵琶という形を取り、以下5種類の琵琶、
- 楽琵琶
- 平家琵琶
- 盲僧琵琶
- 薩摩琵琶
- 筑前琵琶
について、簡単な特徴を押えてみます。
琵琶の音
琵琶の種類によって主に絃を弾く撥が大きく異なる為、琵琶と一言で云っても結構音が違います。これは私の体感での感想になりますが、大雑把には、三味線によく似た音、またはその音より少し摺れたような、シャリっとした音という感覚でいます。そしてかなり難しい楽器であるということも。
日本琵琶楽協会のホームページに、現代の各流派における音源が確認出来ますので、音に関してはそちらを参考にされると良いかと思われます。
そして、ゲームなどでは『大神』の女郎蜘蛛の登場時のBGMや(筑前琵琶っぽい?)、
『戦国BASARA』の上杉謙信のテーマの冒頭の音などに使われているものがそうだと思います(多分)。
上杉謙信は歴史的にも琵琶の名手として有名で、現在でもその愛用していた琵琶「朝嵐」が、米沢の上杉神社稽照殿に保存されているそうです。何かと逸話の多い日本の軍神ですが、かなりの文化人でもあったというのはなかなか有名。
ちなみに謙信公の使った琵琶は四弦五柱のようなのですが、これは詳しくは直接上杉神社に赴いて聞いてみるしかなさそうです。いや~、一度訪れてみたい。
楽琵琶
雅楽の管絃、催馬楽に使われる琵琶のこと。発祥はイラン、南アジアを経て唐より伝わった、日本では始めての琵琶とされている。
- 奈良時代の形を今もほぼそのままの形で伝えている
- 撥は最も小さい
- 柱の間隔が狭い(ギターでいうフレットのようなもの)
- “さわり”がない(ビィィン・・・と響く独特の音を出すための部分)
- 雅楽ではリズム楽器として分散和音を奏で、各小節間の難しい間合いを繋ぐ役割
→ アルペジオ風に弾き、最後の音を次の小節頭の拍子に鳴らす、など
楽琵琶の音の参考動画。
雅楽では琵琶は派手な役割ではないのですが、これがあるとないとではやはり風情が違うように感じます。
平家琵琶
楽琵琶からの派生で、平家物語を語る時に用いられる。開祖は鎌倉時代の「生仏」とされ、“徒然草”によれば藤原行長の著した「平家物語」を生仏が語り出したのが始まりといわれる。
- 撥は少し大きめ(杓文字型)で、先端が大きく開いたものを使う
- 形は楽琵琶をほんの少しだけ小さくしたようなもの
- 四弦または五弦があり、五弦目は四弦と音程は基本同じ
- 平家琵琶を使った平家物語の語り物の音楽のことを「平曲」という
→ 雅楽琵琶と盲僧琵琶を統合したもの - 物語と弾きを合わせた歌のようにも
こちらは平家琵琶での平曲「那須与一」。
平曲にはこの他にも、「敦盛」「壇ノ浦」「祇園精舎」など、平家に纏わる有名な物語が沢山有り、琵琶のどこか物悲しい響きが合わさってとても聞き応えがあります。
また、平曲では語りに合わせて琵琶の弾き方、つまりコードと同じ意味を持つ旋律があり、それを弾くのだそうです。
盲僧琵琶
盲目の琵琶奏者、琵琶法師が用いる。
- 細い形状が多く、笹琵琶とも呼ばれる
- 柱の高さが高め(これは現代の改良によるもの?)
- 音はとても柔らかめ
- 平安時代には経文を唱える宗教音楽としての意味合いをもっていた
- 平家物語や浄瑠璃など、様々な語りを持つ
- 「平曲」が芸術性という意味での歌モノであるならば、盲僧琵琶は語りの合い間に鳴らすという印象
こちらの動画は、最後の琵琶法師といわれる山鹿良之さんの「羅生門」。語りを伝える為の場面に合わせて琵琶を使うという風なので、芸術音楽としての琵琶とはまた違った印象があります。琵琶よりもむしろ語りとその内容に聞き応えを感じてしまう。法師すごすぎる・・・。
雅楽の管絃などを宮廷の儀式的な音の使用とするならば、平曲は流れるような歌であり、盲僧琵琶は語りを中心とした効果音的な使い方をしているようにも見えます。ただ、琵琶法師にも色々な人がいたようなので、一概にそう言い切ることは出来なさそう。
薩摩琵琶
16世紀、盲僧琵琶が薩摩で改良されたものが始まりとされている。今年の大河ドラマの「西郷どん」にも出てくるのだろうか、最近見れてません(涙
- 武士の力強さを歌い上げるために作り上げられた
- 盲僧琵琶に比べて、胴が桑製で撥で叩き付けることが可能
- 撥は平家琵琶よりも大型で扇型
- 筑前琵琶の音楽要素を取り入れた「錦琵琶」が作られた
- 現代では「鶴田流」が有名
こちらは鶴田錦史さんの「壇ノ浦」。平家琵琶と比べると、撥の大きさもあるのかやや派手めというか、非常に力強い印象があります。平家琵琶は主に、隆盛から没落にまで至る諸行無常を歌うのに対し、薩摩琵琶は元々薩摩武士の士気向上のために作られたものだそうなので、やはり力強さを一際感じるものであるように思われます。
また、鶴田錦史さんは男装をされていますが、女性の方だそうです。使っていた琵琶の名は「朝嵐」。上杉謙信の逸話といい、どこか不思議な感じがしますね。
筑前琵琶
明治時代、薩摩琵琶を研究して筑前盲僧琵琶を改良してつくられたもの。
- 薩摩琵琶と比べると、歌と演奏がより一体となっている
→ 三味線音楽の要素が取り入れられている - 薩摩琵琶より、胴・撥共に少し小柄
- 薩摩琵琶より、優しい音色
- 女性奏者に人気
こちらは筑前琵琶奏者の田原順子さんの平曲「祇園精舎」。
音色としては、薩摩琵琶に比べて叩き方が少し優しいこともあるように思えますが、どこか柔らかく、歌いながら演奏していることも多く、現代音楽に親しんでいる側から聞くと、一番聞きやすいのではないかなと。薩摩が男性的だとすれば、筑前は女性的であると思われました。
おわりに
今回、琵琶について調べてみたところ、思った以上に歴史や種類が多く、これだけを把握するのにも時間がかかってしまい、音作りまでとても入れなかった。
ひとまずここまでの内容を私の感覚でまとめてみると、
- 楽琵琶・平家琵琶は伝統的(儀式的)
- 薩摩琵琶・筑前琵琶は音楽的
- 現代では筑前琵琶が一番聞きやすいかもしれない
- 主に語りに合わせて使われることが主流
- 平家の武士が琵琶を使った流れからか、戦乱の諸行無常さを強く感じる
- 音は三味線に近いが、種類によってかなり違う
- 奏法は難易度高めと思われる
→ 打ち込みも多分難しめ - 現代音楽との融和性は低め
→ 雅楽以外での、他の楽器との合奏があまりないため
・・・こんなところでしょうか。琵琶が雅楽以外で合奏としてこれまで加わっていない経緯としてはやはり、
- 語り物の楽器としての文化が古くからあったため
というのが一番の理由なのではないかと考えました。平家物語は800年以上経った今でも愛されている物語。そういう点で、琵琶の仕事はもう古くから地位を確立していたのだろうと思われます。
それに、音色が似ている三味線は16世紀頃に始まったとされる、琵琶から見れば割と新しい楽器。三味線も伝統はありますが、琵琶から見るとやはり楽器としては自由度が高くみえるのかもしれません。
今のところ、琵琶を使うのは思った以上に難しいというのが率直な意見。そんな簡単に使えるとも思っていませんが、現在、予想以上に歴史や用途に奥の深いものをとてもとても感じております。というか平曲などの語り物に聞き入ってしまって、楽器の分析が・・・。
最後に今回、琵琶について画像を探していたのですが、琵琶は琵琶でも果物の方ばかり出てきました(笑
おかしい・・・楽器の方ももっと有名かと思ったんだがー
それでは、今回はこんなところで!